1 無名さん

人肉食

1928年、当時58歳だったフィッシュは偽名 で求職広告に応じ、バッド家に姿を現した。 上品な物腰、穏やかな微笑み、澄んだ瞳。彼 は童話に出てくる「優しいグラン・パ」そのも のだった。 彼はバッド家の長男を破格の待遇で雇い入れ ることを約束し、10歳になる娘のグレース を、「お茶会に招待したいから」と言って連れ 出した。家族は安心しきって2人を見送った。 だがグレースはそれきり、2度と帰ってはこな かった。 6年後、1通の手紙がバッド家に届いた。手 紙には中国には人肉食がある、ということがま ず支離滅裂な文章で、しかも図解入りで綴られ ていた。家族がなおも読みすすむと、こんな文 章に行き当たった。 「お宅のグレース嬢の肉は柔らかく甘く、オー ブンでとろとろと焼き上げると最高の味がする ことをご存知でしたでしょうか。お嬢さんは9 日間かかってわたしのおなかの中に消えたので す」
2 無名さん
「なお、ご安心下さい。わたしは決してお嬢さ んを犯しませんでした。彼女は純潔のまま召さ れたのです。……」 バッド夫人は悲鳴をあげ、そのまま卒倒し た。 フィッシュはその封筒から足が付き、ただち に逮捕された。自供によると、フィッシュはグ レースを殺し、解体し、食ったあとも、鼻と耳 だけは古新聞に包んで身に付け、持ち歩いてい た。列車の中などで、それを尻に敷き、快感を 得ていたのだという。 フィッシュは完全に狂気であったが、心神耗 弱の訴えは却下され、高齢にも関わらず電気椅 子にかけられた。