1 鈴木♂

冬の夜の怪談

私は怪談噺が割と好きで、自分一人でも怪談サイトを作れる位の数のお話を
他人(体験者)から聞いたり、自分自身でも体験しているのですが、冬場の
怪談噺というものは何故か少ないみたいで私自身もあまり知りません。
今回は友人のお母さん(故人)から私が高校生の頃に伺った、怪談というか少し
ファンタスティックなお話を書いてみたいと思います。
2 鈴木♂
彼女が小学生低学年の頃(鈴木♂の推定で昭和十年前後)に経験した新潟の冬の
夜にあったちょっと不思議なお話です。

その頃は各家庭にお風呂がある家が少なく、彼女の住む町の人たちは町から
1キロ程離れた小さな温泉場の共同浴場をお風呂代わりにしていました。

その町の子供たちは子供同士でグループを作り、集団登校をするみたいに
子供たちだけで温泉に入りに行っていたそうです。

それはある冬の日の晴れた夜の事でした。
子供たちは温泉に向かう為に、海岸近くの長い松林の中の細い道を集団で
歩いて行きました。
辺り一面には雪が積もり、踏み固められた雪道も人がすれ違えない程の細い道
だったそうです。
松林の中のその道を歩いていると子供たちは不思議な光景を目撃しました。

それは何百という火の点いたロウソクが雪の上に一列となって立っていて
辺りには人の気配も無く、子供たちの進行方向に向かって右手の松林の中に
向かってそのロウソクの列は立っていました。
3 鈴木♂
子供たちはそれを横目で見ながらも歩いて温泉場に着いてから「不思議だね」、
「あれはいったい何なんだろうね」と話しながらお湯に浸かったそうです。
そしてお風呂から上がり、服を着てからまた同じ道を家に帰る為に歩いて
行きました。

そしてまたロウソクが立っていた松林の中の場所に差し掛かったのですが
子供たちは同じ道を反対方向に向かって歩いてきたのですから、例えロウソクが
立っていたとしても今度は左手側に見えるはずでした。
しかし現場に差し掛かった子供たちが見たものは、また右手側の松林の中に
立っている火の点いた何百本ものロウソクの列でした。
そのロウソクの列は松林の奥までずうっと続いていて、終わりは見えなかった
そうです。

その松林には大昔から狐が住んでいるという伝承があって彼女も勿論それを
知っていたせいなのかもしれませんが、不思議だとは思ったが怖いとは思わな
かったと彼女は話していました。

今と違って、昔の日本人というものは自然というものに対して畏怖や敬意を
持って接していたと鈴木♂は思います。
現代人である我々がそれを感じるのは皮肉にも台風や地震などの自然災害の
時だけなのかも知れませんね。