65 作家◆5KV8
>>47
指先で唇をなでられて…あたしはフラッと彼に寄っかかりそうになるのをグッとおさえ、彼のその手を握ってひと言しぼり出すのがやっとだった。だ…ダメ…です…
「…。」彼は指先を唇から離すと、それでもあたしの手を握り返しながら、言った。
「俺たち…もう…お互いに好きだと思うけど…」あたしは思い切って彼を見上げた。真剣な目でじっと見つめたままで「少なくとも…俺は好きだよ…」
あたしは胸が破裂しそうだった。あたしも…と言いかけて、でも口に出せない…。まず、あたしは看護婦であり彼は患者さんだ。そしてここは職場であり彼は治療に懸命だ。それに…何も知らなかったあたしは、実はつい昨日、野球ファンの友達に入院のことは隠してそれとなく彼について聞いてみた。そこで、彼が実は球界のスターで、若くしてすでにチームの看板選手だということを初めて知ったのだ。野球のことはわかんないけど、サッカーとかよくあるスター選手の世界を漠然と想像したりして、すでに住む世界が違う!! と思ってた。
そんなふうに、彼とあたしの間には見えない壁がありすぎるように思えた…。