89 作家◆5KV8
「イヤ…? イヤだったらこの手は離すよ…」あたしは恐る恐る彼を見た。彼、あたしをじっと見つめてる…
「俺…ヘンなことしようとか、そんな気持ちじゃなくて。ホントに。でも…」
彼の握る力が かすかに弱まりかけたと感じた瞬間、あたしは咄嗟にもう片方の手で彼の手を包んだ。「!」自分でも何故そんなことをしたのかわからない。でも彼の何かに心を揺さぶられた…
彼は再び力を込めてあたしの手を握ってくる…でも微妙に引っぱりたそうな感じもしたけど、決してそれ以上何かしようとはしなかった。閉めきった個室で…迫ろうと思えば迫れちゃう…けど、彼はそういうことはしなかった。
あたしは彼の手をそっとベッドに戻すと、また何かあれば呼んでください…あたしが来るとは限らないけど…、早く治るようサポートしますから。と言った。「ありがとう…」見つめ合うあたしたちが交わす視線は、すでに、ただの患者とナースとはちょっと違っていた。