1 無名さん
少年の尻を食す
明治35年のことである。おつかいに行った 少年が、死体となって発見された。 少年は尻の肉を切り取られ、両目を抉られて いた。 犯人は、野口男三郎という男だった。彼は当 時の漢詩壇の鬼才、野口寧斎の妹、ソエと恋仲 であった。寧斎は当時から病に苦しんでいた が、やがて病状は悪化し、寝起きすらままなら ないようになった。男三郎は次第に彼の病気に 疑惑を持ちはじめるようになる。 寧斎はレプラ(ハンセン氏病)であった。毛 髪が抜け、皮膚や粘膜が侵されて崩れおち、異 様な外貌となるレプラは、当時偏見の的であっ た。
2 無名さん
感染力の低さや、けして不治の病などではな いことが広く知られるようになったのは、ずっ とのちのことである。 当時、業病には人肉が効く、という俗説が あった。 男三郎は少年を殺して肉をえぐり、煮詰めて スープを作った。それから鶏のスープと半々の 割合で混ぜて、寧斎に飲ませた。また、予防の ためかソエにも飲ませた。男三郎によれば「効 果はあったようで、少し病の進行は止んだ」そ うだ。 だがのちに男三郎は寧斎と仲たがいし、彼を も絞め殺している。 彼はすべてを自供したが、無罪になった。 証拠不十分のゆえ、だそうである。