1 無名さん
人肉を好んだ男
これもまた19世紀の話だ。ピアスは囚人 で、5人の仲間とともに脱獄をはかり、盗んだ 小船に乗って流刑地の島から脱走した。 しかし彼らはじきにひどく空腹になり、仲間 を殺して食いあった。その生き残りがピアスで ある。だが彼は追っ手によって捕らえられ、ま た監獄送りになった。 1年後、ふたたび彼は脱走した。今度は仲間 はひとりだけだった。しかしもう彼は以前の彼 ではなく、「すでに、味をしめてしまった男」 だった。 数日後、魚か鶏のように解体されたその「仲 間」の死体が発見された。 ピアスが捕らえられたとき、彼はまだ脱獄し たときに盗んだはずの肉と魚をまだ手つかずで 持っていた。つまり彼は「仲間の肉」ばかりに ついつい手がいってしまったらしいのである。 彼は看守に対し、「人肉のほうが好きだ」と いうことをあっさり認めた。