1 エチゴフブキ

前略、草葉の蔭

短編集形式の擬人化怪獣の話。
投稿は散発的になります。

雰囲気のみの話が多いです。
共通テーマは「追悼」
[裏設定とかEtc.]
外見以前に思考が「擬人的」という感じ。
3 削除済
4 削除済
5 ラストダンスは私に (「モスラ3」より・鎧モスラ)
 
繭糸越しの陽光が純白に輝く。久方ぶりの光に視神経が馴染めない。
生体の防御反応でボロボロ零れる涙を拭う手は、涙で歪んで見えることを考慮に入れても最後に日の下で見た姿とはすっかり形が違ってしまっている。
白銀の鎧に覆われた手をかざすと一億三千万年のあいだ守ってくれた優しい繭はあっけなく崩れた。
ありがとう、と今はもう亡い子供達へ囁く。
この声はきっと届いている。思いは距離を時間を越えるということを、愛しい者達は証明してくれたのだから。

空の青、木々の鮮やかな緑が眼に刺さる。大地の茶色が優しい。
長い間止まっていた空気が動くのを肌で感じる。
ゆっくり伸ばした翅が風を捉えて広がった。
 

[裏設定とかEtc.]
題名はザ・ドリフターズ(芸人ではない)の曲より
6 ラストダンスは私に (「モスラ3」より・鎧モスラ)
 
不思議と爽やかな気分だった。
遠くから伝わる恐怖と悲観と絶望と、小さな士気が、事態の切迫を訴えていて緊急に自分が成すべきことを理解していたが、これまでのような戦いに赴く際に覚えた闘志は湧いてこない。
心は水鏡の如く平らで穏やかに澄んで、冷静だった。

地上の生物全てを覆う、敵の強大な覇気は最初に対峙したときと同じ規模だと推量する。
泰然とした気配を手繰ると鮮やかにそれは視えた。記憶の中と寸分違わぬ樹海の空に、あの綺麗な生き物がいる。

白亜紀で敵を仕留め損なったという確証があった訳ではない。かといって完全に抹殺したと保証出来る訳でもなかった。
自分が延命されたのは自分の意思ではなかったが、結果的には保険が効いたと云える。
遠い祖先から渡された片道切符は敵が死に絶えていれば良しの帰宅の途、生き延びていれば今度こそ倒せという最後通牒。ご先祖様もなかなかに手厳しい。それは母にも自分にも通じることではある。


宙に蹴り出せば飛び方は無意識の部分が覚えている。以前より重くなった気がするのはブランクの所為か、実際重量が増えたのか。しかしすぐにそれを補って余りある加速力を得たことを肌で知る。
未だ視界には捉えられないが鮮明に視える美しい金色。
まだこちらの存在には気付いていないらしい。
きっと私のことなど記憶してはいないだろう。
元凶は私が過去で彼を仕留め損ねたことにあるものの、こういう結果になったことへの悔悛は覚えなかった。
地表に広がり行く人々の悲壮の念を意識から追い払う。今必要なのは感傷でも士気でもない。
では殺意か。それも違う、と直観が否定する。
 

[裏設定とかEtc.]
わかりにくいのは、そう見せたい所為
7 ラストダンスは私に (「モスラ3」より・鎧モスラ)
 
 
“君のために一億三千万年生きてきたんだ”

組み立てた文言を脳内で朗読して、あまりの陳腐さに失笑が零れた。
恋文に似ている、というより縋っているようだ。
蛇が出るかと待ち構えた一億三千万年、もっと鷹揚に生きていた気がする。

長い時を経て憎しみも怒りも悲しみも愛着も、情と言えるものはことごとく爛熟して最早名前がつけられない。
ただ彼と再びまみえることが嬉しいと思う。
ここに熱が加われば、恋と錯覚するのかもしれない。
それを客観的な詩情に仕立てられる時点で、そうは成り得ないのだ。
強いて言うならば、彼には礼を述べなければならない。
私の一億三千万年が貴重になるか無価値になるかは彼の動向次第だったのだから。
時の流れが苦痛だったのかというと、そうでもなかったけれど。
同じ時間、彼はどのように生きてきたのだろう。それを知る由は無い。


“君を殺めるのが私でよかった”

ふいに自覚した言葉に再び失笑した。
全く物騒にも程がある。でもこれがきっと一番正しい。
何だろう、とても満ちた気分だ。


自分は今日この為に生き延びた。時間は対価であり代償であった。
一億三千万年待ち続けたのだから嫌でも付き合ってもらわねばなるまい。
今日の舞台は全て彼の為。
最初で最後の死の舞踏。

彼の心音が止むまで舞踏は終わらない。
 

[裏設定とかEtc.]
新生モスラが「殺害」したのはグランドギドラだけ、という解釈