哀切
過去ログ44
2011/7/3 2:22
◆石田三成私と絆を結ぼうなど、愚行だ。愚かで哀れな貴様に反吐が出る。
未だ世間を知らぬ純白そのものへ実体を与えたかのような貴様には、何人もの輩に抱かれ穢れてきた私など合うはずがなかった。
幸せにしようとしたのは確かだ
幸せになろうとしたのも確かだ
…結果が、この様だ
忘れられないと嘆く相手から引き摺り奪うようにした幸せを、私はあっさりと溝へ流した
最期だからと、せめて貴様が私を嫌えるようにと、私は貴様から逃げた
今でも貴様を想っている。
約束を破って貴様を捨てた男に別れの後ですら想われているとは、貴様も可哀想な男だ
願わくば、貴様を想う一途で純粋な相手が早く貴様を癒してくれるように
まだ外されぬままの首輪と共に、斬首を待とう
交わした言葉が未だに離れぬ耳を、どうか肉を断ち切る音で埋めて呉れ
愛している、――――。
◆浅井長政最初にいう、返書では無い。ただ時期が残虐な程に一致したから、もう逸そ受け止めようと思っただけ。…目が見えぬ程濁ろうが、私自身が偽りの関係を繋いでいたと言われようが。この身が今以上病を拗らせようが、拒絶されようが悪だろうが、もうどうでも良い。
罪悪感は消えない。無念は増える。喪失感は埋まった瞬間また空いた。塞がった筈の皐月の悪夢の風穴は、水無月の終わりの早朝に抉られた。
真偽も軽薄も、善悪さえも、今の私にとってはどうでも良い。投げ遣りなど弱者の催す癇癪だと思っていたが、強ち間違いでは無かったようだ。光の当たらぬ民の日常で失ったものは、残酷な程、大きかった。その空白の大きさに、堪えられる気がしない。
幾ら気丈を飾ろうと、内で弱体する精神。幾ら落涙しようと、渇れる事がない涙。正義も悪もそれ以前のものも、今の私には不要で、無価値極まりない。
世界の始まりは無だったと聞く。
何か此処から、始まるのだろうか。
そしてそれを拒絶する事は出来るのだろうか。
もう暫く、歩く気力が持てない。泣く事も疲れた。立つことも億劫で、座った儘、横になった儘瞳を閉じる。弱いと言われても良い。
…全ては時期が悪かった。そう、全部時期が良くなかった。私に注がれた凶事全てが、一点に集中した。それだけ。悪も正義も無い惨事が、魔の手を伸ばしていた。それに、私は気付かなかっただけの事。大丈夫、たったそれだけ。歩き方を忘れても、誰かがきっと私の先の道を歩む。私が歩かずとも、世界は回る。大丈夫、大丈夫。
この我ながら情けない考えを落ち着かせよう。そして何時もの、浅井長政へ。我が儘の一つでも、皆に掛ける余裕が出来るくらいに。
嗚呼、そんな事実も、今は、今だけは、どうでもいい。飽く事無く、涙のみが、
◆長曾我部元親アンタに嫌われりゃそれで良かった。
…最悪な奴。そう思わせる事が出来りゃ満足だった。
たぶん、アンタは普通に別れを切り出したら、過去をダブらせちまう。
それじゃ駄目だと思ったら、こんな方法しかなかった。
別れの理由は、単純。
暫くしたら俺は消えてなくなっちまう。
惚れたはれたなんざ言う状況じゃねぇ。文を送る事すら不可能になる。
気が移ったなんて嘘だ。
アンタ以外見えねぇよ。
大好きだ、三成。
沢山傷つけて御免な。
最後まで傍に居れなくて御免な。
我儘で御免な。
アンタは最高の人だった。
…アンタがここを見ない事を祈ってる。
◆片倉小十郎恋愛には相応しい人間とそうでない人間が居るらしい
如何やら俺はその一部のようだ。
在りし日、泡沫の恋愛、一心に愛される夢を見た。しかしながら夢は夢だ。最早二度と見る事はねぇだろう。
もう俺は恋愛をする事はねぇ。友情ならば永久に繋がる絆も、愛ならばいつしか消えるからだ。皆がそうじゃねぇだろうが、俺はそうだと実感した。
皆が幸せを祈り応援する為に俺は生まれてきた。愛される為に、なんて性に合わねぇさ。結論など既に出ている。身体も心も全て、何ら魅力の無い人間には独りがお似合いだ。
何人苦しめた。俺は人を苦しませ、悲しませてばかり居る、そんな奴が幸を掴むなんざ馬鹿げてる。そうだろう?
果てる時は誰も居ない場所で、咎人の最期を見届けるは空のみでいい。
◆片倉小十郎人魚の姫の御伽噺が如く。己を売って迄欲した恋は叶わなかった。
竜は人魚が如く、泡沫となって消えた。
もう、テメェに逢うことはねぇだろう。
さらばだ、竜が腹心として、そして人として誰よりも愛した「俺」よ。
◆長曾我部元親俺ァ何のために此処に居る?俺ァ誰かの何かの役に立ててんのか?
否、何も信じてやれねェ己が悪いのか、それすらもわからねェ。
女みてぇに一々歎くたァ鬼らしくねぇがちぃと爆発しちまいそうだ、数少ない友垣すら信じれねぇなんてとっとと地獄に堕ちるべきか。
俺の探す統べての真実ってやつは地獄に行けば見つかるかぃ?
疑心と欲まみれの俺ァ…閻魔の野郎と仲良く出来そうだ。
鬼にめでたし、めでたしって終わり方なんざねェんだよ。
なァ…アンタもそう思うだろ?